相続時精算課税制度について
この制度では、2500万円までの贈与に対して贈与税が免除されますが、相続時にはその贈与した資産を相続財産に加え、相続税を計算します。
改正前の相続時精算課税制度では、生前に2500万円(特別控除)までの贈与が非課税となる一方、贈与を受けた方が亡くなった際には、その贈与された資産が相続財産に組み入れられ、相続税の計算に影響を与える仕組みでした。例えば、1億円の財産を持つ男性が長男に相続時精算課税制度を利用して2500万円を贈与した場合、長男は贈与税を支払う必要はありません。しかし、男性が亡くなった際には、遺産7500万円に加えて贈与された2500万円が合算され、相続税の対象となります。したがって、この特別控除2500万円は税金の支払いを先延ばしにするだけで、実際の節税にはつながらないと言えます。
2024年1月から、相続時精算課税制度に大きな変更がありました。特別控除の2500万円とは別に、年110万円までの基礎控除が新たに導入され、年110万円までの贈与に対しては贈与税が発生せず、相続税への加算も不要となります。
新しい相続時精算課税制度の変更点「110万円の基礎控除」
この改正により、特別控除の2500万円に加え、年110万円までの基礎控除が適用されることになりました。そのため、年110万円以下の贈与は贈与税がかからず、また累計2500万円の特別控除に含める必要もありません。
以下は、新しくなった相続時精算課税制度の図解です。この制度では控除が「2500万円」と「110万円」の2つに分かれたと理解すると良いでしょう。
相続時精算課税制度の新旧比較
1. 贈与税の計算方法
・旧制度:(贈与額-2500万円)×20%
・新制度:((贈与額-年110万円)-2500万円)×20%
2. 贈与税の申告手続き
・旧制度:少額でも贈与ごとに申告が必要
・新制度:贈与ごとに申告は必要だが、年110万円以下の贈与は申告不要
3. 相続財産に加算される贈与財産
・旧制度:相続時精算課税制度を適用したすべての贈与財産
・新制度:相続時精算課税制度を適用した贈与財産全体に加え、年110万円の贈与財産は除外可能
相続時精算課税制度の注意点
・暦年課税制度には戻れない
・年110万円を超えた場合、贈与税申告が必要
・小規模宅地等の特例が適用できなくなる
・判断や計算が非常に複雑
暦年課税制度と新しい相続時精算課税制度、どちらを選ぶべきか?
【暦年課税制度が適している人】
・60歳未満の方:相続時精算課税制度を選択できるのは60歳以上の親や祖父母との関係が条件となるため、60歳未満の場合は暦年課税制度を選ぶことになります。60歳以上になった時点で、相続時精算課税制度に切り替えることも可能です。
・60歳を超えても元気で、まだ7年の余裕がある人:元気なうちから贈与を開始することで、相続開始前の7年を経過した贈与は生前贈与加算の対象外になり、相続税を軽減できます。
・孫への贈与を考えている人:相続財産をもらわない孫への贈与は、相続開始前7年以内であっても生前贈与加算の対象外になり、相続税を軽減できます。
【相続時精算課税制度が適している人】
・余命が少ない高齢者:長期的な贈与が難しい場合、いつ亡くなっても年110万円以下の贈与は相続財産に加算されない相続時精算課税制度を利用するのが良いでしょう。
・年110万円以下の贈与のみを行う人:年110万円以下の贈与を行う予定がある場合、生前贈与加算を回避できる相続時精算課税制度を利用するのが適しています。
・将来的に値上がりしそうな不動産や株を持っている人:相続時精算課税制度で贈与を行うと、贈与時の評価額で加算されるため、値上がりする前に贈与することで相続税を軽減できます。
・特殊な事情で一時的に大幅に価値が下がった資産を持つ人:一時的に価値が下落している資産を贈与することで、下落時の評価額で相続税を計算することが可能です。
今回の改正により利用しやすくなったものの、相続時精算課税制度は依然として慎重に選択すべき制度です。
一度この制度を選択すると暦年課税制度に戻ることができないため、年110万円の基礎控除の計算も以前より複雑になります。自分で贈与税申告を行うと、誤りが生じる可能性があります。
そのため、相続時精算課税選択届出書を提出する前に、この制度を選択するタイミングや将来の相続のことも考慮し、本当に選択すべきかどうかを相続に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
相続税について気になる方は長瀬会計までお気軽にご相談ください。